昨年、押切もえが『浅き夢見し』(小学館)を上梓したときも驚きでしたが、この4月に人気グラビアアイドルの今野杏南が小説を出したことには、より一層驚かされました。しかも、その処女小説『撮られたい』(TOブックス)は官能小説だというではないですか……。
「巨乳の石原さとみがいる!」という(まるで企画単体モノのAV女優のような)売り文句でブレイクした彼女によるこの挑戦は、「タレントとして個性を出していこう」という戦略なのか……? そもそもなぜ、グラドルが小説を……? などと考えていると夜も眠れず、気付けば本書を持ってレジに並んでいるわたしがいました。
売れないグラドルが、ある天才カメラマンに出会って「ハメ撮りされたい」という自分の隠れた願望に気付かされ、ハメ撮りを繰り返すたびにグラドルとしての実力を高めていき成功する……というのが『撮られたい』のあらすじです。官能小説にありがちな話ではありますし、売れないグラドルのサクセス・ストーリーは、押切もえの『浅き夢見し』と重なります(こちらは売れないモデルのサクセス・ストーリー)。しかし、押切もえがほとんど私小説のような形式で執筆したのに対して、今野杏南の描く主人公は、よくわかりません。撮りおろしのグラビアも載っているので、今野杏南の顔を想像しながら読むのは容易です。官能小説って激画チックなエロ・イラストが添えてありますが、あれの代わりにグラビアがついている感じ。
本作ではもったいぶらずに冒頭から早速セックス描写です。正直ケータイ小説みたいな内容を想像していたので、表現の巧みさには意表をつかれました。しかしですね、全体的に上手すぎるんですよ。「絶対自分で書いてないだろ!」っていう。「あとがき」部分では「『ゴーストライターを使って書いてしまおう』という提案もあったが、周りの強いススメにより最後まで自分ひとりで書き上げた」とか嘘を上塗りするようなことが書いてあって思わず失笑してしまいました。是非ですね、流行の最先端に上手いこと“天丼”する形で、ゴーストライターの方には名乗り出ていただきたいものです。
調べてみたらグラドルが書いた小説は他にもあり、ケツ~股間のラインに定評のある吉木りさも昨年『誰かさんと誰かさんがネギ畑』(竹書房)という小説を発表していました。こちらは官能小説ではなく、ジャンル的には青春小説になるのでしょうか。主人公は吉木りさのキャラクターを多少反映したと思われる、駆け出しの演歌歌手(吉木りさも当初は『アイドル風演歌歌手』という謎のキャラで売り出されていたのです)。以下、あらすじを一気呵成にまとめます。
引っ込み思案で、話すスピードも遅い主人公には友達がおらず、いじめられ体質なのですが、ある日、中学時代に好きだった先生が急逝したことを知り、意を決して中学の同窓会に出席します。そこで彼女は中学時代には交流のなかった3人の女子と出会い意気投合。それぞれが歌手、モデル、漫画家、芸人と夢を抱いているものの、全然パッとしない。そんな女子の集団は一晩語り明かしているうちに「前向きに頑張ろう!」という気持ちになり、4人で一緒に新しいバイトを始めるのです。最後にはそのバイト先が実はパワースポットで、4人は見事に成功する……という超展開を迎えました。
いや、しかしですね、自分で書いてないであろう今野杏南の小説と対照的に、吉木りさの小説はなかなかヒドかったですよ。ストーリーの支離滅裂ぶり(とくに伏線は回収されず、最後は全部スピリチュアルのパワーでグッド・エンドへと無理矢理もっていく)だけでなく、さまざまな部分が稚拙です。タランティーノの映画に出てくる雑談みたいなしょうもない会話文がずーーーーっと続いたり、一人称なのか三人称なのか視点がブレまくっているため混乱し、読んでいてなかなかウンザリしました。でも、「初めて小説を書いた」と言うのであれば、このレベルが当たり前です。この小説の稚拙さは「きっと一生懸命自分で書いたんだろうなあ」というリアリティを感じさせます。吉木りさが小説を書いてる姿、ちょっと萌えですね(PCじゃなくて、原稿用紙と鉛筆を使って書いていて欲しいなあ……)。
ここまでご紹介した2冊は、どちらも2008年に発表された酒井若菜による『こぼれる』(春日出版)の足下にも及びません。彼女は松尾スズキとの不倫スキャンダルによって仕事を休業していた時期を「地獄のような日々だった」と振り返り話題となりましたが、「悪い恋を、しているのかな。汚いこと、しているのかな」という帯の付けられたこの小説で描かれているのは、その地獄のきっかけとなった松尾スズキとの不倫だと言われています。これこそ“グラドル小説の金字塔”であり、グラドルが書く必然性を感じる作品だと思います(これと比較してしまうと、今野杏南も吉木りさも『なんで書いたの?』という疑問符が消えない作品です)。グラドル界で小説を書くのが流行るのだとしたら、後続の人たちは、酒井若菜の例を見習ってほしい。AKBの方とか、島田紳助の周りにいた方とか、良いネタ持ってるでしょう、きっと……。
■カエターノ・武野・コインブラ /80年代生まれ。福島県出身。日本のインターネット黎明期より日記サイト・ブログを運営し、とくに有名になることなく、現職(営業系)。本業では、自社商品の販売促進や販売データ分析に従事している。